2004年 10月 09日
がんばらない |
鎌田院長の諏訪中央病院に義父が転院して50日近くが経つ。
脳梗塞で倒れたのが5月の末、「人間らしい表情にもどるかすら期待できない」
「別な人格と思って頂きたい」
死を越える程の宣告を受けて4ヶ月。義父は奇跡の回復力で、自力呼吸、通常食、車椅子・・・
次々と難度の高い課題を与えられては、何とかクリアしてきた。
言語リハビリを集中的に行いたい、との家族の要望から、8月諏訪中央へ移ったのだった。
昨日、早く仕事が終わったので、久しぶりに見舞った。
義父に理解出来ようと出来まいと、ヒアリングもリハビリだろうと、一方的にしゃべりまくった。
ボランティアの事、仕事のこと、リハビリのこと、退院受け入れの事・・・
話し疲れて、ふと見ると、テーブルに置かれた言語リハビリノートを発見。
言語訓練師と義父とのやり取りが書かれている。
「おなまえは?」
の後に義父の名前が漢字で書かれている。
訓練師の書いたその漢字の隣りに、痛々しい義父の字が2つ並んでいた。
左脳の機能をほとんど失ってしまった義父は右半身が全く動かせない。
握力も落ちた左手で、必死に書いたに違いない。
脳は、本当に不思議な器官だ。
左手に正確な動作指令を与える事は出来なくても、自分に小学生以下の運筆能力しかない事、絶えがたい屈辱感を与える事は出来る様だ。
残酷な現実。
何か言おうとして話し始め、義父は「しまった・・」といった表情をして、すぐに口を閉ざしてしまう。
言葉が出ないのだ。
気持ちはのど元まで来ているというのに・・
「大丈夫だよ、時間はたっぷりあるんだから。」
「焦らず、のんびり行きましょう」
夕暮れの八ヶ岳を見ながら、私は義父を慰めるつもりで言った。
帰りがけ、
「今日はもう・・(いいよ、ありがとう)」と、いつもの様に言い、僕の手を握ると何か言おうとして突然、声を上げて泣き出してしまった。
剃り残った硬い髭を頬に感じながら、丸くなった背中をさすり、
「大丈夫。大丈夫だから。」何度も何度も言い、部屋を後にした。
ICUで担当医から死の宣告を受けながらも、いつか車椅子に乗った義父を散歩に連れ出すぞ・・そう心に決めた日が、もう随分昔の事のように思い出された。
いま、僕の目には、自宅を歩く義父が見える。
大丈夫さ、ここでくたばっちまったら、じいさん、あんたの人生は何だったの?って事になっちまうぜ。
「がんばらない」でいい。
でも
「あきらめない」でくれ。
脳梗塞で倒れたのが5月の末、「人間らしい表情にもどるかすら期待できない」
「別な人格と思って頂きたい」
死を越える程の宣告を受けて4ヶ月。義父は奇跡の回復力で、自力呼吸、通常食、車椅子・・・
次々と難度の高い課題を与えられては、何とかクリアしてきた。
言語リハビリを集中的に行いたい、との家族の要望から、8月諏訪中央へ移ったのだった。
昨日、早く仕事が終わったので、久しぶりに見舞った。
義父に理解出来ようと出来まいと、ヒアリングもリハビリだろうと、一方的にしゃべりまくった。
ボランティアの事、仕事のこと、リハビリのこと、退院受け入れの事・・・
話し疲れて、ふと見ると、テーブルに置かれた言語リハビリノートを発見。
言語訓練師と義父とのやり取りが書かれている。
「おなまえは?」
の後に義父の名前が漢字で書かれている。
訓練師の書いたその漢字の隣りに、痛々しい義父の字が2つ並んでいた。
左脳の機能をほとんど失ってしまった義父は右半身が全く動かせない。
握力も落ちた左手で、必死に書いたに違いない。
脳は、本当に不思議な器官だ。
左手に正確な動作指令を与える事は出来なくても、自分に小学生以下の運筆能力しかない事、絶えがたい屈辱感を与える事は出来る様だ。
残酷な現実。
何か言おうとして話し始め、義父は「しまった・・」といった表情をして、すぐに口を閉ざしてしまう。
言葉が出ないのだ。
気持ちはのど元まで来ているというのに・・
「大丈夫だよ、時間はたっぷりあるんだから。」
「焦らず、のんびり行きましょう」
夕暮れの八ヶ岳を見ながら、私は義父を慰めるつもりで言った。
帰りがけ、
「今日はもう・・(いいよ、ありがとう)」と、いつもの様に言い、僕の手を握ると何か言おうとして突然、声を上げて泣き出してしまった。
剃り残った硬い髭を頬に感じながら、丸くなった背中をさすり、
「大丈夫。大丈夫だから。」何度も何度も言い、部屋を後にした。
ICUで担当医から死の宣告を受けながらも、いつか車椅子に乗った義父を散歩に連れ出すぞ・・そう心に決めた日が、もう随分昔の事のように思い出された。
いま、僕の目には、自宅を歩く義父が見える。
大丈夫さ、ここでくたばっちまったら、じいさん、あんたの人生は何だったの?って事になっちまうぜ。
「がんばらない」でいい。
でも
「あきらめない」でくれ。
by freepa
| 2004-10-09 00:47
| 日記